全国の大学生のChatGPT利用実態が初めて明らかに
~大学生のChatGPT利用状況と能力形成への影響に関する調査結果 (速報)~

2023年6月8日

ChatGPTと大学教育をめぐっては、レポートが成績評価に使えなくなるとの危惧、授業・学習における積極的な活用を促す意見など、懸念と期待が混在する現状にあるが、肝心の学生の実態を踏まえないまま、議論が先行している感もある。

日本では大学生に焦点を当てたChatGPTの使用状況に関する全国データが見当たらないなか、全国の大学生(学士課程の学生)4,000人を対象に、アンケート形式でインターネット調査を実施した(調査期間:2023年5月24日~6月2日)。

調査では、大学生によるChatGPTの認知率や利用率はもとより、利用実態(コピペに近いものなのか等)や思考力等への影響についても、学生の行動・認識の両面から探った。

【調査結果のポイント】

1.大学生の14%がレポート等提出物の作成のためにChatGPTを使ったことがある。

2.大学生の20%が日常学習のためにChatGPTを使ったことがある(上記1と重複あり)。

3.その他の利用目的を含め、大学生の32%がChatGPTを使ったことがある。

4.男女別に見ると、男子学生の利用率が顕著に高い。

5.分野別に見ると、理工農の利用率が高く、医歯薬の利用率は低い。

6.学年による利用状況の差は大きくない。

7.レポート等での利用者の92%が、内容が正しいかどうかを確認し、必要に応じ修正したと回答している。

8.レポート等での利用者の85%が、ChatGPTの作成した文章等を書きかえたり、新たな文章等を書き加えたりすることによって、自分のアイデアを生かしたと回答している。

9.レポート等での利用者の77%が自分の文章力の向上にプラスだと思うと回答している。

10.レポート等での利用者の71%が自分の思考力の向上にプラスだと思うと回答している。

11. 日常学習での利用者の91%が、知識を増やしたり、学びを深めたりするうえで、プラスだと思うと回答している。

【調査結果からの示唆】

1.調査結果から見る限り、ChatGPT利用経験のある大学生の圧倒的多数は、ChatGPTの利用を自身の思考力等の向上に役立つと極めて肯定的に評価しており、懸念される批判的思考や創造性を阻害するような使い方をしているとは認識していない。

2.大学や教員の側の視点のみからの議論ではなく、学生の利用実態や学生の声を踏まえた検討の必要性や、教育への積極活用の可能性を示唆する結果が得られたと考えられる。

【大学生のChatGPT利用状況と能力形成への影響に関する調査研究 研究チーム】
大森 不二雄 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 教授 (fujio.ohmori.e7@tohoku.ac.jp)
斉藤 準   帯広畜産大学 農学情報基盤センター 准教授
松葉 龍一  東京工科大学 先進教育支援センター 教授
喜多 敏博  熊本大学 半導体・デジタル研究教育機構 教授


大学生のChatGPT利用状況と能力形成への影響に関する調査結果(速報)

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1.研究の背景

人の指示に応じて人間のように自然な文章を出力する対話型の生成AI(人工知能)であるChatGPT(チャットGPT)は、20221130日に公開されて以降、2カ月でユーザー数が1億人を突破するなど、これまでに例のないスピードで世界的に普及が進んでいる。

ChatGPTが大学教育に与える影響については、レポート課題が成績評価に使えなくなるとの懸念をはじめ、内容の誤り、著作権の問題等、様々なリスクが指摘される一方で、社会で広く使われていく可能性が高いテクノロジーに触れる意義、ChatGPT に有益な問いかけ・指示出し(プロンプト)を行う力、ChatGPTの出力した文章を批判的に評価する力等に着目し、むしろ積極的に活用していくべきとの意見も少なくない。

このように議論百出の状況にもかかわらず、肝心の大学生によるChatGPTの利用状況に関するデータは、現時点では世界的にも非常に少ない。

日本におけるChatGPTの利用状況については、10代から60代の幅広い世代を対象とした民間調査データは存在するが、大学生に焦点を当てたChatGPTの使用状況に関するデータは見当たらない。また、ChatGPTと大学教育に関する日本語の学術文献はほとんどない状況である。

また、海外では、英語圏を中心とする先行研究において、文章力や批判的思考力・創造性等への悪影響も論じられているが、現時点では特段のエビデンス(科学的根拠)に基づいておらず、学生が自らの能力形成への影響をどう認識しているかのデータも見当たらない。

2.研究の目的

上記1のような現状の課題を踏まえ、本研究は、日本全国の大学生を対象とする調査により、ChatGPTの利用状況及びChatGPTの利用が自身の能力形成に与える影響に関する認識について実証的な把握を試み、調査結果の分析・考察を通じ、大学教育におけるChatGPTの取扱いに関する今後の議論に供し得る知見を得ることを目的とする。

ChatGPTの利用状況については、利用率にとどまらず、レポート等提出物の作成や日常的な学習といった利用目的ごとに状況を把握することとする。また、利用の態様は、懸念されているようなコピペに近いものなのか、また、文章力や批判的思考・創造性等の高次の思考力の育成を妨げるものなのかどうかについても、学生の行動及び認識の両面から手がかりを得ることを目指す。

本研究により、日本の大学生のChatGPT利用状況と能力形成への影響に関する現状を把握することは、今後の大学教育及び学習支援の在り方を検討する上で大きな意義があると考えられる。

3.調査の方法

本研究における調査は、全国の大学の学士課程の学生を対象として、インターネット調査サービスを活用し、アンケート形式のWebフォームに回答してもらう方法で実施した。インターネット調査とは、調査会社が募集・登録した膨大な数のモニターの一部から、任意の回答を得るものである。近年、個人情報への意識変化もあり、郵送調査など従来型の調査では回収率低下等により調査の質の確保が困難になる中、学術研究においてもインターネット調査の利用頻度が高まっている。

調査対象は回答時点において大学の学士課程の在学者とし、統計分析に堪え得る回答数を得るため、回答者数が4,000人となるまで回答を受け受け、4,000人に到達した時点で受付を締め切る設定とした。調査期間は2023524日から62日までであった。なお、回答データに基づく研究成果の公表の際に回答者が特定されることはない旨を本調査の冒頭に明記し、回答者がこれを確認した上で回答を開始できるフォーム構成とした。

本調査の設問は、別添(調査票)の通りである。

4.主な調査結果

主な調査結果は、次の通りである。
なお、詳細な分析・考察は、おって学術論文等の形で公表する予定である。

(1)回答者の属性

① 性別: 男性 29.8%、女性 70.2%、その他または答えない 0.0%
② 学年: 1年生 6.7%、2年生 19.6%、3年生 26.0%、4年生またはそれ以上 47.8%
③ 専攻分野: 人文科学・社会科学・教育学 40.6%、理学・工学・農学 18.3%
医学・看護学その他の医療系・歯学・薬学 21.0%、その他 20.2%

(2)ChatGPTの認知率

ChatGPTというAIがあることを知っている者の割合

① 全 体: 大学生の89.8%
② 男女別: 男子学生の95.0%、女子学生の87.6%
③ 学年別: 1年生の91.4%、2年生の90.9%、3年生の89.5%、4年生またはそれ以上の89.3%
④ 専攻分野別: 人文科学・社会科学・教育学では90.9%、理学・工学・農学では95.2%
医学・看護学その他の医療系・歯学・薬学では84.6%、その他では88.2%

(3)ChatGPTの利用率

ChatGPTを使ったことがある者の割合

① 全 体: 大学生の32.4%
② 男女別: 男子学生の44.8%、女子学生の27.1%
③ 学年別: 1年生の35.7%、2年生の32.1%、3年生の33.0%、4年生またはそれ以上の31.7%
④ 専攻分野別: 人文科学・社会科学・教育学では33.0%、理学・工学・農学では45.5%
医学・看護学その他の医療系・歯学・薬学では21.2%、その他では30.8%

(4)大学のレポート等でのChatGPT利用率

大学の授業科目のレポートその他の提出物(予習・復習の提出物を含む)の作成のためにChatGPTを使ったことがある者の割合。分母はChatGPT未利用者を含む。

① 全 体: 大学生の14.0% (上記(3)のChatGPT利用者のうちの43.2%。以下では略)
② 男女別: 男子学生の22.7%、女子学生の10.3%
③ 学年別: 1年生の15.8%、2年生の17.9%、3年生の15.6%、4年生またはそれ以上の11.2%
④ 専攻分野別: 人文科学・社会科学・教育学では14.5%、理学・工学・農学では20.4%
医学・看護学その他の医療系・歯学・薬学では8.5%、その他では12.9%

(5)レポート等での利用者のChatGPTの生成した文章等の確認・修正状況

ChatGPTの作成した文章等の内容が正しいかどうかを確認し、必要に応じ修正したか

① 確認・修正した 64.0%
② どちらかといえば確認・修正した 27.7%
①+② 計 91.8%

③ どちらともいえない 3.4%

④ どちらかといえば確認・修正しなかった 2.1%
⑤ 確認・修正しなかった 2.7%
④+⑤ 計 4.8%

(6)レポート等での利用者の自身のアイデアの反映状況

ChatGPTの作成した文章等を書きかえたり、新たな文章等を書き加えたりすることによって、自分のアイデアを生かしたか

① 自分のアイデアを生かした 45.8%
② どちらかといえば自分のアイデアを生かした 39.5%
①+② 計 85.3%

③ どちらともいえない 6.6%

④ どちらかといえば自分のアイデアを生かさなかった 6.4%
⑤ 自分のアイデアを生かさなかった 1.6%
④+⑤ 計 8.1%

(7)レポート等での利用者の自身の文章力への影響に関する認識

レポート等の作成のためにChatGPTを使うことは、自分の文章力の向上にプラスだと思うか、マイナスだと思うか

① プラスだと思う 41.7%
② どちらかといえばプラスだと思う 35.8%
①+② 計 77.5%

③ どちらともいえない 12.3%

④ どちらかといえばマイナスだと思う 7.7%
⑤ マイナスだと思う 2.5%
④+⑤ 計 10.2%

(8)レポート等での利用者の自身の思考力への影響に関する認識

レポート等の作成のためにChatGPTを使うことは、自分の考える力の向上にプラスだと思うか、マイナスだと思うか

① プラスだと思う 31.5%
② どちらかといえばプラスだと思う 39.2%
①+② 計 70.7%

③ どちらともいえない 14.0%

④ どちらかといえばマイナスだと思う 11.6%
⑤ マイナスだと思う 3.8%
④+⑤ 計 15.4%

(9)ChatGPT利用経験があるにもかかわらず、レポート等では利用していない理由

(上記(3)のChatGPT利用者のうち、レポート等では利用していない者は、56.8%
レポートその他の提出物の作成のためにChatGPTを使ったことがない最大の理由は何か

① 自分が考えて書いたことにならないから 28.4%
② ChatGPTの作成する文章等には内容に誤りがある場合があるから 24.7%
③ 自分で作成した方が出来ばえが良いと思うから 9.1%
④ ChatGPTで作成したことがばれてしまう可能性があるから 18.3%
⑤ ChatGPTを使うのが面倒だから 7.1%
⑥ レポートその他の提出物を作成しなければならない機会がなかったから 9.9%
⑦ その他 2.4

10)日常的な学習でのChatGPT利用率

日常的な学習(レポート等の作成は含まない)のためにChatGPTを使ったことがある者の割合。分母はChatGPT未利用者を含む。

① 全体: 20.1% (上記(3)のChatGPT利用者のうちの61.9%。以下では略)
② 男女別: 男性 31.6%、女性 15.2%
③ 学年別: 1年生 18.8%、2年生 20.8%、3年生 19.7%、4年生またはそれ以上 20.1%
④ 専攻分野別: 人文科学・社会科学・教育学 20.1%、理学・工学・農学 33.5%
医学・看護学その他の医療系・歯学・薬学 10.7%、その他 17.4%

11)日常的な学習での利用者の自身の知識や学びへの影響に関する認識

日常的な学習のためにChatGPTを使うことは、知識を増やしたり、学びを深めたりするうえで、プラスだと思うか、マイナスだと思うか

① プラスだと思う 52.2%
② どちらかといえばプラスだと思う 39.0%
①+② 計 91.3%

③ どちらともいえない 7.0%

④ どちらかといえばマイナスだと思う 1.6%
⑤ マイナスだと思う 0.1%
④+⑤ 計 1.7%

12)レポート等での利用者と日常的な学習での利用者の重なり具合など

上記(3)のChatGPT利用者の内訳

① レポート等と日常的な学習の両方で利用 31.7%
② レポート等で利用しているが、日常的な学習では利用していない 11.4%
③ 日常的な学習では利用しているが、レポート等では利用していない 30.2%
④ いずれの目的にも利用していない(これら以外の目的のみで利用) 26.6%

5.調査結果からの示唆(暫定的な考察)

(1)調査結果から見る限り、ChatGPT利用経験のある大学生の圧倒的多数は、ChatGPTの利用を自身の思考力等の向上に役立つと極めて肯定的に評価しており、懸念される批判的思考や創造性を阻害するような使い方をしているとは認識していない。

(2)大学や教員の側の視点のみからの議論ではなく、学生の利用実態や学生の声を踏まえた検討の必要性や、教育への積極活用の可能性を示唆する結果が得られたと考えられる。

【大学生のChatGPT利用状況と能力形成への影響に関する調査研究 研究チーム】
大森 不二雄 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 教授
(お問い合わせ: fujio.ohmori.e7@tohoku.ac.jp
斉藤 準   帯広畜産大学 農学情報基盤センター 准教授
松葉 龍一  東京工科大学 先進教育支援センター 教授
喜多 敏博  熊本大学 半導体・デジタル研究教育機構 教授

 

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